労働者派遣法の基礎知識『日雇派遣の禁止』について

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日雇い派遣の原則禁止とは?

労働者派遣法では「派遣元事業主は以下の場合を除き、日雇労働者(日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者)について労働者派遣を行なってはならない」と定めています。

【禁止の例外】
①日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務に派遣する場合
②雇用機会の確保が特に困難な労働者等を派遣する場合

日雇い派遣の原則禁止に至る経緯

当初から日雇派遣が禁止だったわけではありません。平成24年の派遣法改正で日雇い派遣は原則禁止となりました。ではなぜこのような改正がなされたのかその経緯をご説明いたします。

 

【平成19年頃】

不適正な日雇派遣や「派遣切り」という言葉が出回り社会問題となりました。日雇い派遣は繁忙期対応の人員確保など企業のニーズが高い一方で、勤務体制の不明確さや日雇派遣で働いている人たちの雇用の不安定さが浮き彫りとなりました。日雇い派遣=「ワーキングプア」との認識が広がっていきました。

【平成20年】

労働政策審議会で
「日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者について、原則、労働者派遣を行なってはならないものとすることが適当である。その場合、日雇い派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について政令によりポジティブリスト化して認めることが適当である」と記載されました。

 

このことを受け、日雇い派遣は派遣先、派遣元それぞれで「労働者の働きやすい環境を作る」という雇用管理の責任が果たされないことが多く、派遣労働者の保護に欠けることや、労働者の雇用を安定させることを目的に平成24年の派遣法改正が行われ、日雇い派遣が原則禁止となりました。

日雇い派遣の原則禁止の例外

日雇い派遣がすべて禁止というわけではありません。一部の『業務』、一部の『人』に限って例外的に日雇い派遣を認めています。
では、どのような業務、どのような人が認められているのでしょうか?

 

まずは、例外「業務」についてです。

派遣法では「日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務に派遣する場合」としています。以下の19業務が日雇い派遣でも適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないとされている業務です。

  • ソフトウェア開発の業務 機械設計の業務
  • 通訳、翻訳、速記の業務 財務処理の業務
  • 事務用機器操作の業務 研究開発の業務
  • 取引文書作成の業務 案内・受付の業務
  • 広告デザインの業務 秘書の業務
  • デモンストレーションの業務 調査の業務
  • 書籍等の制作・編集の業務 添乗の業務
  • OAインストラクションの業務 看護の業務
  • ファイリングの業務
  • 事業の実施体制の企画、立案の業務
  • セールスエンジニアの営業、金融商品の営業関係の業務

雇用が安定しない労働者を減らす目的で日雇い派遣は禁止されていますが、上記の業務は専門性が高く常に需要があるとされている業務のため日雇い派遣でも問題ないと判断されています。

 

次に例外要件に該当する「人」についてです。

派遣法では禁止の例外として「雇用機会の確保が特に困難な労働者等を派遣する場合」としています。雇用機会の確保が特に困難な労働者には日雇い派遣を認めています。

条件は4つあり、そのいずれかに該当する場合は日雇い派遣での就業を認めています。

 

 ■60歳以上

雇用される時点で60歳になっていることが必要です

60歳以上の方が例外として日雇い派遣が認められている理由は雇用の機会が少ない傾向にあり、生活するために働く機会を少しでも増やすことを目的としているためです。

 

 ■学生

昼間の学生で雇用保険の適用を受けていない学生が対象です。いわゆる昼間学生です。

雇用保険の適用をうけられる学生は日雇い派遣が禁止されています。例えば夜間に学業に努める夜間学生は仕事は生活基盤を支えるものとして扱われるため日雇い派遣が禁止されています。

 

 ■生業収入が500万円以上あり、日雇派遣を副業とする方

生業収入とは本業つまりメインの仕事で得る収入を指します。

複数の仕事を掛け持ちしている場合、最も多く収入を得ている会社から得ている収入が500万円以上の場合が対象です。

 

 ■主たる生計者でない方で世帯収入が500万円以上ある方

主たる生計者とは世帯の中で最も収入が多い方を指します。

一般的には世帯全体の収入のうち50%以上を占める収入を得ている方が主たる生計者にあたります。世帯全体の収入が500万円以上で主たる生計者でない場合対象となります。

 
 

昼間の学生や生業収入が500万円以上や主たる生計者でない方で世帯収入が500万円以上の方が例外として日雇い派遣が認められている理由は、収入が不安定になりやすい日雇い派遣であっても、生活に大きな影響を及ぼすことがないとみなされているため、日雇い派遣での労働が認められています。

 

日雇い派遣で就業する場合

例外業務に該当しない場合は対象者かどうか確認する必要があります。

そのために就業前にそれぞれの条件に合わせた書類を派遣元に提示する必要があります。60歳以上の方は生年月日が確認できる免許証やマイナンバーカードなど、学生の方は学生証が必要となります。生業収入が500万円以上の方や主たる生計者でない方で世帯収入が500万円以上の方は昨年度の収入を証明できる書類が必要です。「源泉徴収票」「課税(非課税)証明書」「所得証明書」「確定申告書」などです。

 

違反して就業してしまった場合はどうなるのか?

万が一違反したことが判明した場合、派遣会社に対して指導や改善命令、場合によっては業務停止や免許取り消しなどの行政処分が下されます。そのため、派遣会社は就業前に日雇い派遣として働ける要件を満たしているか証明書の提示を派遣スタッフに求めています。

 

日雇い派遣に関するQ&A

Q: 例外に該当する業務もしくは要件のいずれかに該当する人以外は日雇いという働き方ができないですか?

A: 30日以内の就業を原則禁止しているのは「日雇い派遣」のみです。直接雇用で就業する場合は30日以内であっても禁止されていません。

 

Q: 派遣先A社に長期で派遣スタッフとして就業中に、派遣先B社に単発(1日のみ)で就業をするためには例外要件のいずれかに該当しなければいけませんか?

A: 雇用期間が31日以上で結ばれている場合、その期間中に単発で就業しても日雇い派遣には該当しません。

 

Q: 当初の雇用契約は31日以上でしたが、派遣スタッフ本人の希望による離職で結果として雇用期間が20日となった場合、日雇い派遣に該当しますか?

A: 結果として雇用期間が30日以内となった場合、日雇い派遣には該当しません。

 

Q: 大学を休学していますが、日雇い派遣で就業は可能ですか?

A: 昼間に学校に行き、夜アルバイトで働く学生以外は日雇い派遣で就業することができません。そのため、学校を休学している場合や通信教育を受けている場合などは日雇い派遣で働くことができません。

 

Q: A社、B、C社を掛け持ちしておりそれぞれ、400万円、150万円、20万円の収入を得ています。これらを合算すると500万円を超えていますが、「生業収入が500万円以上」という禁止の例外要件に該当しますか?

A: 最も多く収入を得ている会社から得ているA社の収入が500万円以上となる必要があるため、要件に該当しません。

アビリティーセンターで「社会保険」や「法務」に携わる経験を活かし、働く人には知っていてほしい話をわかりやすくお伝えしていきます。